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『チボー家の人々』<マルタン・デュ・ガール [あらすじ]

『チボー家の人々』Les Thibault(22-40)
 カトリックのチボー家とプロテスタンのフォンタナン家をめぐる人間模様。全8部11巻の大河小説。20世紀前半のフランス中流家庭の生き様を、当時新しい小説の実験的な試みが盛んに行なわれていた中で具象的な筆致で描く。
 科学を信奉し医師の職務を全うしようとする兄アントワーヌと、家出をして反戦運動家となり激しい反社会的態度を貫こうとする弟ジャック。2人はそれぞれのやりかたで、父オスカール・チボーに象徴される既成の秩序に反抗する。父の病死によりいわば旧世界は崩れ去る。しかし新世界を築くはずの兄弟を待っていたのは第1次世界大戦で、時代の宿命は冷酷にも2人を死に追いやってしまう。
 山内義雄の名訳で長編小説であるにも関わらず、日本で翻訳が出版されたあと文学ファンが愛読した名作である。私も高校時代に全巻を読んで感動した一人です。ジャックとフォンタナン家の娘のジェニーの恋愛と結婚するまでの過程は青春物語とし印象的だった。

『ボヴァリー夫人』<フローベール [あらすじ]

『ボヴァリー夫人』Madame Bovary(57)
 田舎医者シャルル・ボヴァリーは妻を亡くしたしたあと、往診先の富農の娘エンマをみそめる。エンマはロマンチックな小説を耽読して娘時代を過ごしていた。二人はやがて結婚する。だがエンマはすぐに平凡な生活と凡庸な夫に幻滅し倦怠のうちにロマンチックな夢想にふける。
 若い公証人書記のレオンと愛し合うがこれはプラトニックラブに終わり、レオンは村を去る。やがてエンマは田舎紳士で色事師のロドルフに身をまかせ乱費を重ねる。しかしロドルフは彼女を棄てて去る。見境をなくしたエンマは、ある日ルアンでレオンに再会し、今度は彼女から積極的に仕掛けて情事と散財を重ねる。だが夫に内緒の莫大な負債のために窮地に追い詰められ、絶望して服毒自殺する。
 実際に起こった三面記事的事件を題材に、ブルジョワの世界を鋭く描き、発表当初小説の一部の描写が風紀を乱すものとしてスキャンダルになり起訴されたが、結果は無罪となった。しかしこのためかえって作品は爆発的に読まれ、レアリスム文学の最高傑作となった。

『嘔吐』<サルトル [あらすじ]

『嘔吐』 La Nausée(38)
 主人公のアントワーヌ・ロカンタンは独身で、港町ブーヴィル(架空の町だが、モデルはノルマンディーのルアーブル)へ来て、3年間教師をするかたわら18世紀のロルボン侯爵の研究をしているが、倦怠と孤独をもてあましている。
 ある日、海辺で「石切り遊び」をしている時、世界も自分も理由なく偶然に存在していることを「発見する」。彼は吐き気を催す。それはこうした不条理な存在の仕方、その事実性を前にしておきたのである。
 彼は昔の恋人アニーに会い、彼女も昔信じていた「特権的瞬間」を信じていないことを知る。ロカンタンは歴史研究をすることを止め、小説をかくことで意味を見出そうとし、パリに帰るところで小説は終わる。

『夜間飛行』<サン・テグジュペリ [あらすじ]

『夜間飛行』Vol de Nuit(31)
 ブェノス・アイレスの飛行場で、他の到着予定機が到着しているのにパタゴニア発ファビアン操縦の郵便機だけが到着していない。支配人リヴィエールは心配して彼を待っている。嵐に襲われ連絡も取れなくなっていしまう。夫の身を案じて問いつめる妻に、リヴィエールは個人の幸福ではなく責務の遂行に意味があるのだということを示そうとする。
 ファビアンは事故を起こして不帰の人となっていたのだ。彼の遭難を知ったあともリヴィエールは堅固な意志から任務遂行のためヨーロッパ行きの便を発進させる。

『人間の条件』<マルロー [あらすじ]

『人間の条件』La Condition Humaine(33)
 1927年の中国における「上海クーデター」をモデルに物語は展開する。テロリスト陳(チェン)、日仏温血で労働組合のリーダー清(キヨ)とその妻ドイツ人のメイ。闘争運動の過程で彼女が白人の同志と過ちを犯すが、清(キヨ)は彼女への愛と迫りくる死のため彼女を許す。清(キヨ)は闘争中逮捕され、先の不安を予測して服毒自殺をとげる。闘争はどうやら不成功に終わる。彼の父ジゾールは北京大学の教授であるが中国を逃れ日本へゆく。その他、労働組合幹部の頼りになるカトフがおり、また中国やフランス人の多くが闘争に参加した様子が描かれている。

サン・テグジュペリ [生涯]

Antoine de Saint-Exupéry(1900-44)
 フランス航空機界草創期のパイロットとして、北アフリカついで南米パタゴニアで新空路開発にあたるかたわら、ペンを執り『南方郵便機』Courrier-Sud(29)、『夜間飛行』Vol de Nuit(31)などを上梓し、航空文学の先駆けとして作家デビューをする。
  その後空から人間界を見おろし人間を観察して人類愛から人間同志を結びつけることの重要性を痛感して『人間の土地』Terre des hommes(39)を書き、空の上で思索したモラリスト作家の系譜に位置付けられいる。「大地は我々のことについて、万巻の書物よりも詳しく我々に教えてくれる」(『人間の土地』)
 第2次世界大戦では偵察飛行に従軍。この体験から『戦う操縦士』Pilote de guerre(42)を世に送る。一時アメリカに亡命するが、大戦末期連合軍の反抗とともに北アフリカ戦線に復帰。パイロットとして出撃するには年齢の限界を超えていたが、44年に偵察飛行のため基地を飛び立ったまま消息を絶ち、地中海に墜落したことまでは確認されているが、飛行機の機体および彼の遺体は未発見のまま。遺作として文明論ともいえる『城砦』Citadelle(48)を残した。
 彼の作品で最も人口に膾炙しているのは大人の童話と言われている『星の王子さま』Le Petit Princeだろう。日本で60年~70年代頃にブームとなり、OLが『星の王子さま』の翻訳を小脇に抱えているのが「流行」していた。大学の卒論で『星の王子さま』をテーマにする女子学生が毎年いたことがあった。
 私個人的には『星の王子さま』より『人間の土地』の方が好きだ。

アンドレ・マルロー [生涯]

André Malraux(1901-1976)
 フランス現代の小説家・政治家・美術評論家。最近ではあまり言われないがサンテクジュペリとともに行動主義の作家としてネーミングされていた。
 コンドルセ高等中学校を経て東洋語学校の聴講生となり美術・考古学を学ぶ。1923年古代クメール王朝遺跡のためインドシナに赴く。そこか古代仏像の一部を持ち帰るが国家財産略取の容疑で逮捕され裁判にかけらる。この件では釈放されるが再度インドシナ、および中国へ行き、広東での革命政府にかかわったとされている。この時の体験から小説『征服者』、『王道』などを上梓する。さらに長編『人間の条件』を世に問う。初期のヨーロッパの既成社会への反抗を描いた作品から、人間理解はさらに深まる。「個々の死を乗り越えて生きる人間の文明に対する信頼への道筋をはっきりとみること」(白水社『フランス文学史』)ができる。
 36年には一転反ファシズム運動のためスペイン戦争に飛行隊長として参加。この時の体験を小説『希望』で表す。40年にはフランスレジスタンスに参加し戦う。このように神出鬼没の行動をとることから「行動主義」の作家といわれるが、戦後はド・ゴールと肝胆相照らす仲となり、ド・ゴール内閣に入閣し文化大臣の職につく。パリの街の建物が年代により薄汚れたのを綺麗にする清掃作業を指揮し、明るい街に変貌させた「業績」もある。日本にも来日し各地を回って、美術品などを鑑賞したこともあるが、京都神護寺の源頼朝像を絶賛したことは絵画ファンにはよく知られていることである(ただし、最近の研究でこの人物像は頼朝ではなく頼義だという新説が浮上している)。
 政治家になってからは小説作品はなく、専ら美術研究に没頭し『芸術の心理学』全3巻など、次々と美術論をを書いてこちらの方面で高く評価されている。
 私生活では子供を事故で亡くしたり、妻にさきだたれたりして苦難の人生だったようだ。

ジャン・ポールサルトル [生涯]

Jean-Paul Sartre(1905-1980)
 現代フランスの哲学者・小説家・劇作家・時事評論家など多彩な活躍をした。第2次世界大戦後、実存主義を標榜してフランスのみならず世界の思想界をリードした大者。
 フランスの秀才が集まる名門校「高等師範学校」Ecole normale supérieureを主席で卒業する。同校にいたシモーヌ・ドゥ・ボーヴォワールと出会い生涯をともにする(婚姻関係はとらず契約結婚という形態をとり当時話題となった)。小説としては初期の『嘔吐』が有名。これは実存主義思想をイメージ化した小説と言えるが、「実存は本質に先立つ」L'Existence précède l'essence.という命題に基礎を置く哲学書『存在と無』は質・量とも現代思想の遺産とも言える大著。その他小説としては『自由への道』が重要だが、劇作も『蠅』・『アルトナの幽閉者』など多数の作品がある。時事問題を『シチュアシオン』全10巻のタイトルのもとにまとめた評論集は現代の世相を映す鏡的な意味を持っている。
 カミュとも一時友人関係にあったが、いわゆる「カミュ=サルトル論争」以来袂を分かち現代の思想界に亀裂が走った。しかし、1960年にカミュが自動車事故で急逝した時に書いた弔辞は彼の度量の大きさと深さがあり感動的な葬送の辞となった。

ロマン・ロラン [生涯]

Romain Rolland(1866-1944)
 フランスの劇作家・小説家・音楽研究家・伝記作家など多彩な分野でその業績を残している。短編『ピエールとリュス』、長編小説『魅せられたる魂』などを書く。『ジャンク・リストフ』は全10巻にも及ぶ「大河小説」の先駆的作品。
 生命礼賛から出発し、英雄的人道主義にユマニストとしての彼の生涯をささげた。第一次大戦の時、「戦乱を超えて」と題して自己の思想表明をしたが、戦争気分に傾く民意の中で非難をあびた。
 長編『ジャンク・リストフ』はほぼベートーベンの生涯をなぞるよな大作だが、『魅せられたる魂』はそのタイトル名から女性に人気があったものの「女ベートーベン」のような意志の強い女性を主人公にしたこの作品は冗長の感を免れず今ではあまり読む人がいないようなのが現状のように思われる。
 モーパッサンの『脂肪の塊』という作品と混同され、『魅せられたる』という仏文学専修の学生がいると笑い話のような記事が週刊誌に出ていた。

ジャン・ジャック ルソー [生涯]

Jean-Jacques Rousseau(1712-1776)
 フランスの文学者・思想家。18世紀を代表する作家だが、その影響は21世紀の我々にまで及ぶ。ジュネーヴの時計職人の子として生まれたが、10歳の時父が家族を捨てて家出したため、13歳から徒弟に出される。しかしそこを逃げ16歳から放浪生活に入った。旅先でヴァランス夫人(Mme de Warens)に出会い彼女の庇護を受けるが、同時に彼女の愛人にもなる。しばらく夫人の家にとどまるがその後パリに出る。
 パリではディドロをはじめ百科全書派と交流を結び、1750年に懸賞論文に応募し、その論文『学問芸術論』が当選し一躍文名をはせた。その後『人間不平等起源論』、小説『新エロイーズ』、『社会契約論』などを上梓するが、『エミール』を出版したとき、この書に書かれている文明社会批判が当局の忌憚に触れ、焚書となり逮捕令も出されたので国外に逃亡した。一時社会からうける脅迫観念にとりつかれるが、彼の思想は のちの世界にあたえた影響ははかり知れないものがある。
 

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