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『ヴァニナ・ヴァニーニ』<スタンダール [あらすじ]

「ヴァニナヴァニーニ」Vanina Vanini
 スタンダールはイタリアの小漁村チヴィタ・ヴェッキアに役人として赴任していた時にイタリアの古文書を読み漁っていたと言われている。この作品もそうしたものの一つが素材になっているのだろう。スタンダールの登場人物は、ことにあたって明確な態度をとりメリハリがある行動をするのが特徴である。この「ヴァニナヴァニーニ」の女性主人公ヴァニーナもそうした人物の一人だろう。
 
182ж年の春の一夜、かの有名な銀行家Bжжж公爵が新邸の披露のため舞踏会を催していた。そこにはイギリスからも金髪の美女たちが贅を凝らして来ていた。中でも眼の輝きと漆黒の髪とでローマ人だとわかる娘が父親に連れられて来ていた。高慢さが彼女の動作の一つ一つに輝いていた。彼女は当夜の女王ということになった。
 こうした最中サン・タンジェロ要塞に監禁されていた若い炭焼党員が変装して脱走したという噂が流れた。一緒に踊っていた貴公子から「あなたのお気にいるのはどんな男でしょう?」と尋ねられたヴァニーナは「脱走したという炭焼党員です」と答える。
 ※( 炭焼党(員)。イタリア語でCarbonariという。19世紀初頭に南イタリアでできた秘密結社。自由主義的政治団体に変わっていってウィーン体制に反対する自由主義運動の中心的な役割を担ったが1830年頃には衰退した党)
 ヴァニーナは当夜の舞踏会の第一の美女として「女王」に選ばれた。父の公爵は結婚を急いだがヴァニーナはOuiと言わない。ローマ人を軽蔑しているからである。
 ある日ローマから帰って来たヴァニーナは、父の開かずの部屋に灯かりともっていることに気づきその部屋の鍵を手に入れる。中に入るとベッドの上に血まみれの女が横たわっていた。ヴァニーナは父の留守の間にその小さなテラスに登るのを常としていた。父がこの女の部屋に時々食料を持って入っているのが見られた。ある晩部屋の窓にそっと顔を寄せていると、女の目とばったりとあってすべてがバレテしまった。とっさにヴァニーナは「あなたが好きです」という。そして自分の身分を明かす。「女」は彼女に「あなたがここへくることが知れない方がよい」という。「女」は傷が痛むといい、口は血でいっぱいになっていた。
 けれども医師に診て貰えない事情があるという。「女」は変装していたが自分は男で炭焼党員のミッシリッリといい、囚われていたところから命がけで逃げてきたのだと告白する。
その折に傷を負ったのだと。そして馬車に乗っていたヴァニーナの父に偶然助けられたのだと。ヴァニーナはそれを聴きあわただしく部屋を出て行った。そのあとで一人の外科医があらわれミッシリッリに刺絡をし、手当てをしてくれた。ヴァニーナは部屋のところまで来て様子を窺がっていた。友情が恋いに変化したようだ。その後ヴァニーナは何度も彼の部屋を訪ねた。彼は回復していた。彼のほうでもヴァニーナに激しい恋心を抱くようになっていた。ヴァニーナの恋いは激しく燃え上がっていたが、男は冷静な態度を崩さなかった。ヴァニーナの誇りは一歩一歩崩れかかっていた。彼女はついに恋を打ち明けた。彼女の狂気の沙汰は大きかったが、幸福だった。一方、ミッシリッリの方も19歳という若さであったが激しい恋いに狂った。4ヶ月が過ぎたころ、ミッシリッリには炭焼党員としての使命が思いだされイタリアのことを思った。彼は復讐をするためにロマーニャへ行くという。ヴァニーナは武器とお金を提供するという。そして結婚もしたいと。だがミッシリッリは祖国に身を捧げたものとしてはその結婚の申し出は受けられないという。ヴァニーナの自尊心は傷つけられ凍る思いだったが、ミッシリッリの腕の中に身を投じる。ヴァニーナは一緒に行き、自家の出先の城に逗留し、そこで一緒に暮らすとことを二人は誓う。
 だがミッシリッリはそんな行為は野蛮だと思い祖国と自由のことに思いをはせる。ヴァニーナは彼の心が自分から離れないことを確信する。ミッシリッリはローマを去って行った。ミッシリッリは家族のもとに帰った。みんなに歓迎されたが、ある時カラビニニエール(憲兵)に追い詰められたミッシリッリは拳銃で二人を殺す。ミッシリッリに賞金がかけられた。ヴァニーナはロマーニャに姿を現さなかった。ミッシリッリは身分の相違のことを思い虚栄心を傷つけられた。そうこうするうち結社の首領が逮捕され、自分が20歳の青二才にも拘わらず首領に選ばれた。そして義務を優先しローマの娘のことは忘れてしまった。
 二日後ミッシリッリはヴァニーナ姫がサン・ニコロ城に着いたことを知った。彼は翌日彼女に会った。結社を纏めるのに充分なお金を持ってきてくれていた。陰謀が成就しようとしていた時、結社の首領たちが逮捕され組織は麻痺した。
 ロマーニャに着いてすぐヴァニーナはミッシリッリが愛を忘れたように思った。男の愛をかち得られなかったことを思ってほろりとした。ヴァニーナはもの思いから醒めると、お城に来て24時間一緒に過ごそうと申し出た。男は承諾した。男の部屋を出るとき。ヴァニーナはその部屋に鍵をかけた。そして昔自分の小間使いだった女のところへでかけ、そこにあった祈祷書の欄外に今夜炭焼杜党員たちが集合する場所とミッシリッリを除いた他の炭焼杜党員たちの名前と住所を書いた。そしてこの祈祷書を小間使いに州総督と枢機卿に渡してほしいと頼む。全てが順調にいった。総督はそのページを読み女に返した。女が無事ヴァニーナのところへ帰ったとき、ヴァニーナはこれで男(ミッシリッリ)は自分のものと思った。そしてサン・ニコロ城へ行こうと言った。ミッシリッリは同意した。馬車はすぐ近くに用意されていた。
 サン・ニコロ城へ着くとヴァニーナは自分のしたことに良心の呵責を感じていた。男にある一言をいえば、永遠に自分たちはダメになると思った。
 その夜ヴァニーナの召し使えの一人が部屋には入ってきて、19人の炭焼杜党員が包囲され9人は逃げたが、残った10人は逮捕されたことを知らせた。そのうちの一人は井戸に身をなげ自殺したことも告げた。ヴァニーナに色を失った。だがミッシリッリは彼女の「裏工作」を知らなかった。ミッシリッリは「どうしようもない」と言った。彼女はちょっと出かけたあと部屋に帰ってみると、部屋はもぬけの空だった。部屋の隅に置手紙があった。そこには「自分は総督に自首すること。裏切ったのはあの井戸に身を投げた男に違いない。私を愛して下さるなら復讐をして下さい」という趣旨のものだった。彼女は椅子に崩れおちた。しかし神様に誓いミッシリッリを自由の身するおことを決心する。
 一時間の後彼女はローマへの途上にあった。ローマでは父がリヴィオ・サヴァッリ公爵との結婚を決めていいた。ヴァニーナは父の一言を聞いてあっさり承諾した。彼女はドン・リヴィオ・サヴァッリは伊達男であったが、軽佻な男として通っていたことを知っていたので利用しようと考えたのだ。
 彼女は彼に「この間フォルリで捕まった炭焼杜党員たちはどんな処遇を受けているのでしょう?」と探りをいれた。ドン・リヴィオ・サヴァッリは「全員脱走した」と告げた。だが翌日に来て「前日言ったことはすべて間違いであった」という。さらに彼は伯父の部屋の鍵を手に入れ、なかで書類をみると炭焼杜党員の大半はラベンナかローマで尋問をうけるが、フォルリで捉まった9人と自首した首領のミッシリッリはサン・レオ城で監禁されている」と記してあったと付け加えた。
 この話を聴いてヴァニーナはその「公文書」を見たいと言い、さらに伯父の部屋にも入りたいとつけ加えた。それから2・3日後サヴェッリ家のお仕着せを着て男装したヴァニーナは司法大臣の極秘の書類を見た。その中に「被告ピエトロ・ミッシリッリ」という記事があった。ヴァニーナは上機嫌になりそのフランス大使の邸で開かれた舞踏会でドン・リヴィオと離れずに踊った。夫になるドン・リヴィオは幸福に酔いしれた。すかさずヴァニーナは父の召使が「あなたの伯父さんのローマ総督の家にやとわれたいというし、もう一人はサン・タンジェロ城で働きたい」と言っていることを告げる。ドン・リヴィオは「私がその二人を雇いましょう」というがヴァニーナは指定したところではダメだと突っぱねる。
 ヴァニーナはこの計画は無謀だろうかと一瞬悩むが、偶然が彼女に慈悲を垂れたくれた。ドン・リヴィオは知っていることをもらす。「結社の10人はローマに護送され、判決が決まったらロマーニャで処刑されることになるだろう」と。
 ミッシリッリがローマに着くことになっている前日、ヴァニーナは口実を設けてチッタ・カステッラーナへ赴いた。ここで10人は一泊することになっていたのだ。ヴァニーナは鎖に繋がれて二輪馬車に乗っているミッシリッリをチラッと一目見た。
 愛人の姿を見てからはヴァニーナには新たな勇気が沸いた。ヴァニーナはあらかじめサン・タンジェロ城の教戒師を買収しておいた。炭焼杜党員たちの裁判は長くかからなった。裁判官たちは全員に死刑を宣告することをのぞんだが、司法大臣は退職後枢機卿になる「天下り」人事のことを考えて極刑を減刑する判決を下した。ただし、ミッシリッリだけは例外だった。
 翌日、司法大臣のカタンツアーラ猊下が真夜中頃自邸にもどり衣服を脱ぎ捨てるとそこに人影が現れた。ピストルを人影に狙いをつけると、それはヴァニーナだった。大臣は腹を立てたがヴァニーナはなだめにかかりミッシリッリの命ごいをした。それは脅迫ともとれる言い方だったが大臣はヴァニーナの美貌に気持ちの腰が折れた。大臣はミッシリッリの命を助けることを約束した。ヴァニーナはお礼の印に大臣に接吻をした。
 夜中の2時頃大臣はヴァニーナを部屋から送りだした。翌日重苦しい気持ちで教皇の前にまかり出ると、意外なことに教皇の方からミッシリッリの減刑を宣告され、書類に署名した。
 ヴァニーナは炭焼杜党員たちの結社を告発したこと、裏切り行為をしたことに苦しみミッシリッリの気持ちの離反を恐れた。ヴァニーナはミッシリッリが移送されるとき、鎖でがんじがらめになっている彼を見た。真夜中に礼拝堂のところに二つの影が見えた。それは牢番とミッシリッリだった。ヴァニーナはミッシリッリの頚に身を投げ彼を抱擁した。ところが男の態度は凍るように冷たかった。
 ミッシリッリは「自分はヴァニーナの愛にふさわしくない」と彼女に自分の気持ちを吐露する。ヴァニーナは彼の変化を見て立ち直ることができなかった。事実は死期が近づくにつれてミッシリッリの心がイタリアの自由に対する情熱と宗教的原理からくるものであった。ミッシリッリはヴァニーナを愛しているが、神様のおかげで、人生の目的は牢獄で死ぬかイタリアの自由のために死ぬかだと断言する。さらに「義務というものは残酷なものだが、それ以外にヒロイズムはあるのだろうか?どうかもう私に会うことは考えないで下さい」という。ヴァニーナは打ちひしがれていた。ヴァニーナは思いあまって、彼を助けるために裏工作をしたことを白状する。ミッシリッリは激高してヴァニーナを打ち殺そうする。牢番が彼を押さえて事なきをえるが、ミッシリッリは遠去ってゆく。
 ヴァニーナは呆然自失した状態でローマに戻った。その後の新聞記事によると、ヴァニーナはドン・リヴィオ・サヴェッリ公爵と結婚したことが伝えられていた。


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