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『知られざる傑作』 <バルザック [あらすじ]

『知られざる傑作』Le Chef-d’Œuvre Inconnu
「『知られざる傑作』はバルザックの短編の代表作としてあげられるもので、数の知れた人間の力量とかぎりない欲望との戦いは、彼が好んでとりあつかった主題であった」と文庫本の解説者は言っている。長編をたくさん世にだしたバルザックとしては珍しいことかも知れない。
 
大成してフランス古典主義絵画の領袖といわれる若きプーサンが画家ポリュビュスのところを訪ねようとして家の階段を上がっているとき、後にブレンホーフェルと名があかされる一見みすぼらしい老画家が案内役のようにかれをポリュビュスのところへ導く。
 ポリュビュスはこの老画家に対して敬意を表しているのか恭しい挨拶をする。老画家は自己陶酔型の芸術家なのか、自分のことを大家のように言い、「芸術の使命は自然を模写することではない、自然を表現することだ」などとひとしきり彼の芸術論を披瀝したりする。
 イタリア派の技巧様式をフランドルへもたらしたマビューズの弟子だとも言い自己宣伝する。
 青年プーサンはポリュビュスの絵を見て「この聖女はじつに神々しいではありませんか」と賞賛する。ここで老人は青年に注意を向け、「絵を描いてごらん」と試すように言う。青年は「マリア」の絵を素描する。老人は興味をもって青年の名前を聞く。ここで青年が「プーサン」と名乗る。そして老人は絵についても「悪くはないね」と褒めたような言い方をする。しかしあいかわらず自分が製作中の「美しき諍(いさか)い女」Belle-Noisieuseにはかなわない、と自我自賛する。しかし青年の素描画を金貨2枚を出して「買おう」とさえいう。
 3人は一旦ポリュビュスの家を出て、ブレンホーフェルのアトリエへ行く。
 そこでポリュビュスと青年プーサンはブレンホーフェル老人の絵を見せてくれと頼む。しかし老人はかたくなに見せることを拒否する。
 青年プーサンとポリュビュスの2人はブレンホーフェルのところを出て別れ、プーサンは自分の家に帰る。そこには恋人のジレットが待っていた。ポリュビュスは画家としての自信ができたことを告げると同時に、ジレットに老ブレンホーフェルのモデルになってくれと頼む(ジレットが女のモデルとして完全なのだからという理由で)。ジレットははじめ拒否するが最後に承諾する。
 そのことにポリュビュスも賛成で、ジレットが老ブレンホーフェルのモデルになることの代償として、ブレンホーフェルの「美しき諍(いさか)い女」を見せてくれることを条件にした。しかし、老人はかたくなに見せることを拒否する。
 老画家は密かにジレットを描いているようだが、様子がわからない。もし老画家が変な気をおこしたら、アトリエへ突入する気構えで、ポリュビュスは短剣のつばに手をかけて様子をうかがっている。
 やっとアトリエに入って2人の認めたものは、カンバスの隅に見せている一本のむき出しの足でしかなった。老画家は架空の女に向かい微笑みかけていた。「おそかれはやかれ、このカンバスには何もないことに気づくのだ」とプーサンは叫んだ。
10年もかかって老画家は何も描いていなかったのだ。彼は「美しき諍(いさか)い女」のモデルだった「カトリーヌ」を緑色のセルの布で覆っていた。
 老画家と別れてから、ポリュビュスは気がかりなので、ブレンホーフェルに会いに行った。そして、そこで彼は老人が絵をみんな焼き捨てて、死んでいることを知った。

 バルザックの作品は状況描写・主人公を取り巻く諸々の素材描写が細かく詳しいことは誰もがいうところだが、この短編にもその特徴は遺憾なく発揮されている。

 
 

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