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『山の宿』<モーパッサン [あらすじ]

L’Auberge『山の宿』<モーパッサンあらすじ

 オート・ザルプ地方に行くと、似たり寄ったりの木造の宿屋が建っているが、シュワレンバッハの宿は、ゲンミイの隘路を通る唯一の避難場所になっている。
 その宿は年の半分だけ開いていて、冬になる前にオーナーたちは下山し、あとは老案内人のガスパール・アリと、若いウルリッヒ・クンジと犬のサムとが留守番をすることなっている。こうして2人の男と犬が春がくるまで、雪の牢獄にとどまるのだ。
 オーナーのオゼエ一家が山を降りる日が来た。留守番たちは峠まで一行のお供をした。
 彼らはまず小さな湖をぐるりとまわったが、太陽が白い砂漠に照りつけるだけで、この深い沈黙の中にもの音一つ聞こえるでもなかった。
 若いウルリッヒ・クンジは背の高いスイス人だったが、若い娘の方は長い山篭りのため風貌が退色したようだった。母親のオゼエは今回はじめて山に残るウルリッヒに注意を与えているが、アリ老人は14年もここで冬を過ごしたベテランだ。ウルリッヒは聞いているようだったが、心ここにあらずで娘の方を見ていた。
 彼らはドオブ湖に着いたが結氷した水面が広がっていて、周囲は岩山を露出した山や氷河の巨大な堆積があるだけだった。ゲンミイの峠にさしかかった頃、突然アルプスの壮大な遠景が広がって見えた。それらはとおく白雪をいただいた連峰の群像だった。やがて彼らの足下にロエーシュ村が見えてきた。人家はまるで砂粒のように散らばっている。
 ロバは峠に来て立ち止まった。女たちは雪の上に飛び降りた。
 別れの時だ。皆は別れの挨拶をした。若いウルリッヒ・クンジは娘の耳元で「山の人達を忘れないで下さい」と言ったが、娘もそれとなくその真意を理解したようだった。
 降りて行く人達が見えなくなって、老人のアリと若いウルリッヒ・クンジの2人の男はシュワレンバッハの宿の方へ引き返した。これから4・5ヶ月は2人だけの山暮らしだ。
 やがてガスパール・アリは去年の冬篭りの生活を語り始めた。彼ら(ガスパール・アリとその友達)は別段退屈もしなかった。勝負事やその他いろいろの遊び事が身に着くものだ。ウルリッヒ・クンジは目を伏せたまま聞いていたが、程なく山小屋の見えるところまで来た。小屋ではむく毛のサム(犬)が待っていた。「さあ、もう女衆はいないのだから俺たちは自炊しなければならない」とガスパール老人が言った。
 翌日ウルリッヒ・クンジはゲンミイの峠まで来てロエーシュの村を眺めた。屋根の低い家々は上から見ると、まるで牧場に石畳を並べたように見えた。オゼーの娘はどこにいるのだろう。だが太陽は没していまい若者は小屋に帰った。小屋では老人とトランプをした。夕食をして二人は床についた。
 来る日も来る日も山小屋の生活は同じようなものだった。ある朝二人は吹雪に襲われそれが四日四晩続いた。彼らはまるで囚人のような生活をした。ウルリッヒ・クンジは拭き掃除をし、ガスパール老人は炊事の仕事をした。二人は喧嘩もせず穏やかに過ごしたが、深く心に諦めるところがあったからである。老人は狩りに出かけた。若者は朝寝坊をした。
犬のサムも一緒に昼寝をした。そして四時に帰ってくるはずの老人を向かえに出かけた。雪は深い渓谷をすっかり平らにしていた。三週間このかたウルリッヒは村が見る峠へは行かなかったが、老人の帰りを迎えるために氷河のところまで来た。老人の名を呼んでみたがそれに答える声はなかった。
 太陽はすでに山の端に隠れた。ウルリッヒは老人は既に別の道を歩いて帰ったのだと思い、小屋へ帰った。犬のサムが向かえてくれたが老人はいなかった。今にも老人が帰ってきそうに思ったが、いろいろ心配になり椿事を想像した。
 ガスパールは穴に落ちたのではないかなど諸々の事故を想像した。だがこの広い山の中ではどのように探す術があるのだろうか。やがて彼はサムを連れて探しに出かけることを決心した。リュックの中に食料をつめたり、アルペン・ストックを準備したりしてガスパールを探しだす用意をした。
 柱時計が1時を打った頃サムを連れて山の方へ出かけた。険しい山を登りに登った。
 やがて夜が明けて太陽が山々を照らした。ウルリッヒ・クンジは再び歩き始めた。歩いても歩いても何も見つからなかった。正午頃食事をしたサムにも食べさえた。ふたたび捜索にかかった。日が暮れてもまだ歩いた。小屋からもう50キロも遠くへ来ていた。雪洞を掘ってサムと一夜を明かす準備をした。ウルリッヒ・クンジは一睡もしなかった。死の恐怖に襲われたとき、再び元気を取り戻した。
 小屋に戻ると家は空っぽだった。ウルリッヒ・クンジは夕食をして寝てしまった。
 深い眠りに落ち込んでいたとき、「ウルリッヒ」と自分を呼ぶ声を聞いたような気がした。
それで「ガスパールかい」と呼んでみたが、何の返事もなかった。風が起こった。荒涼とした高地には何ひとつなかった。さきほどの「声」は友が臨終の時発した声のような気がした。ガスパールは二日三晩くぼ地に落ちて断末魔の苦しみを味わったのだ。そして息を引き取る前に魂が友(ウルリッヒ)のところへ来たのだ。
 ウルリッヒはその魂を壁の後ろに感じた。それで恐ろしくて外へでる勇気がでなかった。
 夜があけるとクンジは幾分気が楽になった。朝食をしてサムにもスープを与え、椅子に腰掛けて雪の上に倒れている老人のことを考え続けた。
 やがて夜になって、一人になるとこの静寂な高い山の上で自分独りであることに恐怖を覚えロエーシュ村へ降りて行きたくなった。
 真夜中頃になると幽霊屋敷に行くのが怖いみたいに自分の床に入るのが怖くなった。と、突然、叫び声が聞こえ椅子からころげ落ちてしまった。この音でサムも起き、鼻をならして唸っていた。クンジは椅子をつかんで(幽霊に向かって)「入っちゃいけない、入っちゃいけない」と叫んだ。犬も一緒に見えない敵に対して吠えていた。ウルリッヒは正気に戻ったが恐怖のためブランデーを何杯もあおった。
 翌日も何も食べることなく酒ばかり飲んでぐでんぐでんに酔っ払って恐怖から逃れようとしていた。「ウルリッヒ」という呼び声を聞いたように思ったが、また酒を飲んで酔い潰れた。犬のサムも少し気が狂ったようだ。三週間飲んでしまったら酒がきれてしまった。
アルコールに頼れなくなくなると、恐怖の固定観念が増大し、家の中を右往左往するばかりだった。とうとうある晩思いきって小屋の戸をあけ、自分を呼ぶ奴を黙らせようとした。
冷気にあたって冷えたので戸を閉めたがその隙にサムが外へ出た。壁の外で誰かが泣いているような気がした。
 彼に残されていた理性も恐怖のため吹っ飛んでしまい、羽根布団や家具などで内からバリケードのように囲いをした。ところが外の奴は呻き声をあげるので彼もそれに応じて呻いた。このように連日連夜彼らはお互いに咆えつづけていた。そのうち疲れてしまって眠ってしまった。そして目が覚めると頭が空っぽのようになって何も覚えていなかった。
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 冬が終わった。ゲンミイの隘路も通れるようになったのでオゼエ一家は小屋に帰ろうとして出発した。ところが小屋に残って冬篭りしていた二人が峠まで向かえに来ていないので不審に思った。
 みんなが小屋に近づいたとき鷲に啄ばまれた骸骨を見た。「サムにちがいありませんよ」と母親が言った。オゼエ爺さんは「おーい、ガスパール」と呼んでみた。中から叫び声がするのが聞こえた。戸がなかなか開かなかったので三人の男が丸太のような梁を小屋にぶっつけた。戸は大音響をたてて崩れた。すると戸棚の後ろに一人の男が突っ立っているのを見た。髪は肩まで垂れ下がり、髯は胸のあたりまで伸び、眼光はらんらんとして身体に髑髏をまとった一人の男を。はじめは誰だかわからなかったが、オゼエがいきなり「かあさん、ウルリッヒだよ」と叫んだ。髪の毛は真っ白になっていたが母親もウルリッヒであることを認めた。みんながその身体に触っても何の反応もなかったので、ロエーシュの村まで連れて行き医師に見せた。医師は「気が狂っている」と言った。
 それにしてももう人はどうなったのか?知るよしもなかった。
 娘のルイーズはその夏、ぶらぶら病に罹った。みんなは山の寒気のせいだと思った。

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